人間の弱さや醜さを容赦なく描く漫画家・新井英樹(あらいひでき)。その作品の中でも、とびきり強烈なのが『ザ・ワールド・イズ・マイン』です。
新井英樹の漫画の中でもダントツで残虐描写が多く、とにかく人が死にまくります。
殺人鬼のモンとトシ、そして正体不明の怪物ヒグマドン。過激な暴力描写に目を奪われますが、その奥にあるのは命や善悪、人間や社会についての問い。
好きな人は大好き、嫌いな人はとことん受け付けないタイプの作品。
そんな「面白かった!」だけでは、どうにも片づけられない新井英樹の怪作漫画『ザ・ワールド・イズ・マイン』を紹介します。
あらすじ
『ザ・ワールド・イズ・マイン』は、圧倒的な力を持ち、自分の欲望や衝動をためらうことなく実行する男・モンと、彼に強く惹かれて行動をともにする青年・トシを中心に描く物語である。
爆弾を手にした二人は「トシモン」と呼ばれ、日本各地で凶悪な事件を引き起こしていく。
同じ頃、北海道には巨大な熊を思わせる正体不明の怪物「ヒグマドン」が出現。
意思を持って暴れる人間と、目的すら分からない怪物という二つの脅威が日本を揺るがし始める。
物語は単なる犯罪者の逃亡劇にとどまらず、警察やマスコミ、政治、一般の人々まで騒動に巻き込まれ、異様な広がりを見せていく。
作品解説
『ザ・ワールド・イズ・マイン』は、漫画家・新井英樹によるバイオレンス・社会ドラマ作品である。タイトルの英語表記「THE WORLD IS MINE」から「TWIM」と略されることもある。
大量殺人を繰り返すモンとトシ、正体不明のヒグマドンという二種類の理解不能な存在を置き、その周囲で揺れ動く人間や社会まで描くのが大きな特徴。
過激な暴力描写だけでなく、命や善悪、個人と社会、さらに暴力へ意味を与えようとする人々の姿まで描き出す。読む側にも簡単な答えを与えない、異色のスケールを持つ作品である。
新井英樹は制作にあたり政治や哲学、警察を細かく調査し、各県警の装備まで資料を集めたという。強烈な個人を描いてきた新井作品の中でも、視点を国家や世界へ広げたスケールの大きな作品である。
『週刊ヤングサンデー』で連載され全14巻で完結。2006年には大幅な加筆修正を加えた『真説 ザ・ワールド・イズ・マイン』全5巻も刊行された。
おすすめポイント・感想・レビュー
『ザ・ワールド・イズ・マイン』は好きか嫌いかで聞かれるとめちゃくちゃ困る漫画です。
ただ、作品としては大好きか大嫌いかで真っ二つに分かれそうなタイプ。
人におすすめしたいかと聞かれたら、たぶんおすすめしない。笑
絵は荒々しいし、暴力描写は容赦なし。読んでいて気持ちいい漫画でもなければ、最後に感動してスッキリする漫画でもありません。
でも、間違いなく心に残る漫画ではある。
傑作というより怪作。「面白かった!」よりも「なんかすごい漫画読んじゃったな…」という感覚の方が強いです。
命に価値はあるのか。なぜ人を殺してはいけないのか。正義は誰が決めるのか。
そんな簡単には答えられない問いを、これでもかという暴力と狂気の中にぶち込んでくる。
暴力的だけど、哲学的。面白いよりも先に圧倒される。読み終わって何年経っても頭から離れない。
個人的にはそんな作品でした。
圧倒的な残虐描写!でも、ただグロいだけじゃない
まず何といっても残虐描写がエグい。
殺人、爆破、性的暴力まで、とにかく容赦なし。人が死ぬ場面もかなり生々しく描くので、苦手な人は序盤でギブアップしても全然おかしくありません。
映画だと『俺たちに明日はない』や『ナチュラル・ボーン・キラーズ』とか好きな人には合うかもしれません。
ただ、『ザ・ワールド・イズ・マイン』がすごいのは、これだけ人を殺しまくる漫画なのに、読み進めるほど「命」について考えさせられるところなんですよね。
モンやトシが人を殺すたびに、その周囲にいた人間や社会まで描かれるから、命とは何なのか、なぜ人を殺してはいけないのか、そもそも命は本当に平等なのかというところまで話が広がっていきます。
これだけグロい漫画なのに、読んでいるうちに道徳や倫理について考えさせられている。
残虐描写そのものは間違いなく人を選びます。でも、その暴力を単なる刺激で終わらせないところが、新井英樹のすごいところです。
正反対の殺人コンビ!モンとトシの歪んだ関係
爆発テロと殺人を繰り返しながら逃亡する二人は、世間からは「トシモン」と呼ばれ、テロリストコンビとして扱われますが、中身はまるで違います。
モンはとにかく自由。
他人の価値観なんてお構いなし。善悪なんて知ったこっちゃない。自分がやりたいからやる。
そんなモンの圧倒的な存在感に憧れ、自分もそうなりたいと思っているのがトシ。でも、トシはどうやったってモンにはなれない。
怖がるし、嫉妬するし、認めてもらいたがる。虚勢を張ったかと思えば、すぐに弱さも顔を出す。
おそらく、読んでいるほとんどの人が嫌悪感を抱きやすいのはトシなんじゃないかな。途中ホント嫌いだった。笑
常人には理解不能なモンよりも、圧倒的に人間臭いトシに感情移入しやすいんですよね。だから見ててしんどい。
そんな二人の上下関係がだんだんと曖昧になっていくのも面白い。
物語が進むにつれてトシが壊れていく様子にゾッとしました。もうね目つきが登場時と全然変わっちゃうの。
モンに引っ張られるような形でテロや殺人に加担していたはずのトシが、終盤は完全に犯罪者の顔になってる。
圧倒的なモンと、そんなモンに憧れてしまったトシ。この歪んだ二人の関係がめちゃくちゃ印象に残ります。
本筋だけじゃない!脇役とサブストーリーがやたら濃い
『ザ・ワールド・イズ・マイン』は、モンとトシだけを追いかける漫画ではありません。
警察官、政治家、マスコミ、被害者、その家族など、とにかく脇役が多い。さらに、一人ひとりのバックボーンや性格、仕草のクセまで丁寧に描いていく。
トシモン」と「ヒグマドン」という二つの事象を中心に、それを取り巻く人たちを描く群像劇のような構成。なんならモンとトシが出てこないパートもかなりあります。
「この人そこまで描く必要ある?」と思うような人物にも、普通に人生がある。でも、これが効いてくるんですよね。
これから殺される人にも家族がいて、仕事があって、ついさっきまで普通に生活していた。それを見せられてから殺されるから、一人の死が単なる人数にならない。
「トシモン」が潜伏することになる電器店で暮らしていた家族。逃走時にたまたま居合わせてしまったカップル。物語に大きく関わる人物ではないのに、「名前も知らないモブが死んだ」で終わらせないのがうまい。
いわゆる捨てキャラがいないので、丁寧に魅力的に描いた人物たちが容赦なく殺されていくのがつらい。
死ぬシーンがあっけないのも、逆に強烈に印象に残ります。
「トシモン」を追う警察の塩見警部補や、薬師寺、須賀原。「ヒグマドン」を追うハンターの飯島猛と星野隆之。主要なサブキャラもみんな魅力的。
中でも存在感があるのが、ユリカンこと由利勘平首相。
トシモンが突きつけた命や死刑についての問いに、政治家として、人間として答えようとする姿はかなり印象に残りました。
直接「トシモン」と接触することは一切なく、殺人犯を追う本筋とは別のところから、作品のテーマをグッと掘り下げていきます。
日本の総理大臣とアメリカ大統領の演説シーンは名言だらけですよ。
本筋からどんどん枝分かれしていくのに、それが全部この作品の世界を作っている。サブストーリーが脱線ではなく、全部この漫画のテーマにつながっているのがうまいです。
トシモンとヒグマドン、二つの「破壊」がシンクロしていく
そして忘れちゃいけないのが「ヒグマドン」。
この作品をただの殺人犯の逃走劇で終わらせないのが、このヒグマドンの存在です。
リアルとSF。殺人鬼と怪獣が同居している。
生と死、人間とは何かという問題を、テロリストと怪獣の両方の側面から目を背けたくなるようなえげつない生々さで描いています。
もうね、ずっと『ナチュラル・ボーン・キラーズ』と『シン・ゴジラ』を同時に見せられているような感覚。笑
- 自らの意思で人を殺す「トシモン」
- 善悪なんて関係なく、圧倒的な力で人間を蹂躙する「ヒグマドン」
人間による暴力と、人間には理解できない巨大な力。どちらも人間社会から見れば、とんでもない破壊そのものです。
そして、最初は別々に進んでいた二つの脅威が、徐々に同じ場所、同じ時間へと近づいていく。
この構成はかなり好きだったなぁ。
トシモンとマリア、飯島と星野、そしてヒグマドン。この3組が交差点で一堂に会する場面の高揚感はハンパないです。
こんな人におすすめ
正直、万人にはおすすめできません。
殺人や性的暴力を含めて残酷描写がかなり強いので、グロい漫画が苦手なら避けた方が無難です。
「人間って何だろう」「命って何だろう」と考えさせてくる漫画が好きな人。
読後にモヤモヤしてもいい。むしろ何年経っても思い出すような一冊に出会いたい。
そんな人には、この『ザ・ワールド・イズ・マイン』という猛毒を一度味わってみてほしいです。
最後まで普通の人間だったトシ
容赦なく人を殺し、一部のマスコミにはカリスマのように扱われたりと、社会に大きな影響を与えた殺人犯「トシモン」。
でも、最後まで読むと、やっぱりトシって普通の人間だったんだなと思います。
家族も含めて普通。(自分が年を取ったせいか、久しぶりに読み返したら母親のエピソードはキツかったぁ。)
トシには家族がいて、過去があって、モンと出会う前の生活がある。
どこかにいそうな普通の青年がモンちゃんに憧れて壊れていったんでしょうね。
トシの過去編を見ると、モンちゃんに執着しているトシに比べて、モンちゃんはフラッといなくなって数ヶ月帰ってこなかったりする。
そして、トシが死んだ後、モンちゃんが教祖や象徴のような存在となり、世界中に多くの信者を生み出していくのを見ても、初江がそうであったように、トシがモンちゃんと出会う前から、モンちゃんの周りにはトシのように自分に心酔するような人間が他にもいっぱいいたのかもしれないなと思ったりもします。
ボニーとクライドにも、ミッキー&マロリーにもなれなかったトシ。
むしろモンにとって特別な存在になったのは、結果としてマリアでしたね。
好きなキャラじゃなかったけど、特別な相棒になれないまま死んでいったトシの最後は切ないんだよなぁ。
最後までわからなかったモンという存在
最終話の前に、ようやくモンの過去が描かれます。
モンの過去が明らかになることで、彼を象徴するような言葉ですら、もともとは他人から聞いたものだったのには驚きました。
そして、多くの人が心酔したモンも、もとは可哀想な家庭環境で育った一人の子供だったことがわかる。
今まで描いてきた人たちと同じように、最後に新井英樹はモンちゃんもまた人間だったっていうことを描きたかったのかな。
それにしては、終盤のモンちゃんが超人すぎるんだよな。野性味すらなくなって、ただの神。笑
トシと違って、最後までつかめないキャラでした。
トシモンが終わっても物語は終わらない!
モンとトシを主役とした逃走劇は12巻で終わってるんですよね。
その後トシはモンを神格化する人間たちにさらわれ、被害者側へ引き渡されて殺される。一方のモンちゃんはどんどん神格化されていく。
物語の顛末を語る後日談のような描き方で、まさか2巻以上続くとは思わなかった。
最終話の展開は…はじめて見たときには意味不明。でも読み直してみると、これはこれで悪くなかったのかなと。
犯罪者の逃亡劇から、こんなスケールになるとは想像もできなかったけど、「そしてトシモンはその後も無双して暮らしました」なんてハッピーエンドはありえない話だったし。
こういう、物語がもう後戻りできないところまで進んでしまった漫画って、どう終わらせるかが難しいですよね。
- すべてに答えを出さず、ある程度の謎や問題を残したまま終わる『ドラゴンヘッド』パターン
- 世界全体の問題を扱いながら、最後は個人の物語に落とし込むことで希望を残す『寄生獣』パターン
- 社会にとって悪である主人公が退場し、残された側からその存在を振り返って終わる『デスノート』パターン
- 最後に全部ひっくり返す『東京大学物語』『代紋TAKE2』パターン。笑
『ザ・ワールド・イズ・マイン』は終盤の流れからして『デスノート』パターンかなと思ったら、そこから『なるたる』になるとは思わんやん。笑
でも、よくある「風呂敷広げすぎて畳めなくなった」作品とは根本的に違うんですよね。
風呂敷を広げすぎたわけじゃないし、トシモンの物語自体はすでに決着している。『ザ・ワールド・イズ・マイン』の場合は、ラストで急激に世界そのものへ視点を広げていく。
…とはいえ、人類滅亡から20億年後まで描くとも思ってもみなかったけど。笑
もうその罪を覚えている人はおろか、それが罪だったのかどうかすら分からない世界にまで連れて行かれてしまいました。
『THE WORLD IS MINE』という暴力的なエゴイズムから始まって、凄まじい熱量と混沌を経て、最後は真逆の『THE WORLD IS YOURS』へ着地。
世界は俺のものから、世界はあなたのものへ。この反転で終わるのがなんともすごい。
無料立ち読み

俺は俺を肯定する
あとがき
改めて読み直してもやっぱりすごい衝撃。
万人におすすめはしづらいけど、新井英樹作品のランキングなら『宮本から君へ』が1位。
新井英樹信者が選ぶ「好きな作品ランキング」ならこっちが1位。そんなイメージ。伝わる?
新井英樹の作品の中でも一人を深く掘り下げるタイプではなく、かなりスケールの大きな作品ですが、この漫画を思い返す時にパッと思い出すのは、「トシモン」や「ヒグマドン」よりも脇役なんですよね。
そう考えると、群像劇という形になっているだけで、弱さや醜さなど人間を描いている部分では、根本は変わらないのかもしれませんね。
自分の年齢によって感情移入して読むキャラが変わってくるのも発見でした。昔と今じゃ、刺さるところが全然違うんだよなぁ。
めちゃめちゃエグい残虐描写が多くてテーマも重いのに、映画的なスピード感があるので、新井英樹作品の中では比較的読みやすいという矛盾。笑
新井英樹のおすすめ漫画作品ランキングもチェック!
ここまで読んで「新井英樹、ほかの漫画もヤバそうだな」と思った方。はい、だいたいヤバいです。笑
作品ごとに題材は違っても、人間のどうしようもない部分まで真正面から描くのが新井英樹。
『ザ・ワールド・イズ・マイン』が刺さったなら、ほかの作品にもぜひ手を出してみてください。
合法的に漫画を安く・無料で読む方法!
とにかくたくさんの漫画を読みたい方のために、70~90%OFFで購入する方法や、無料で読める作品など、漫画を安く読む方法を紹介しているのでチェックしてみてください。
