『魔人探偵脳噛ネウロ』に続いて松井優征(まついゆうせい)が描いた『暗殺教室(あんさつきょうしつ)』は、暗殺と教育という異色の組み合わせから始まる学園漫画です。
マッハ20で動く超生物が先生で、その先生を生徒たちが暗殺する。こんな設定を思いつくだけでもすごいのに、それを最後まで一本の物語として成立させてしまうのがすごい。
先生を暗殺するために生徒が成長し、その先生が自分を殺せるよう生徒を育てていく。全然王道じゃないのに、驚くほどに王道な少年漫画!
笑えて、熱くて、最後にはしっかり泣かされる。今回は、そんな一風変わった学園漫画『暗殺教室』の魅力をじっくりレビューしていきます。
あらすじ
『暗殺教室』の舞台は、成績不振者などが集められた名門・椚ヶ丘中学校の3年E組。
山の上の旧校舎で肩身の狭い学校生活を送る生徒たちの前に、月の大部分を破壊した謎の超生物が現れ、なぜか担任教師になることを希望する。
翌年3月には地球も破壊すると予告しており、政府が生徒たちに課した任務は、卒業までに先生を暗殺すること。
しかし「殺せんせー」と名付けられた標的は最高速度マッハ20で動き、あらゆる攻撃を簡単にかわしてしまう。その一方で教師としては非常に優秀で、勉強や進路、悩みにまで真剣に向き合う存在だった。
落ちこぼれと見下されてきた生徒たちは暗殺を学ぶ中で自分の武器を見つけ、標的であり恩師でもある殺せんせーとともに成長していく。
作品解説
『暗殺教室』は、漫画家・松井優征による学園アクション・コメディ作品。
「生徒が先生を暗殺する」という刺激的な設定ながら、中心にあるのは教育と成長。殺せんせーの教育を通して、自分の弱点や個性を武器へ変えていく生徒たちの姿が描かれている。
松井優征が中高生時代に求めていた「楽しく成績を上げてくれる教師」という理想も殺せんせーに反映されており、暗殺と教師漫画を組み合わせた発想が大きな特徴である。
『週刊少年ジャンプ』で連載され、全21巻で完結。TVアニメや実写映画も制作され、完結時には原作・アニメ・実写映画を連動させる大規模なメディアミックス展開が実施された。
松井優征はプロジェクト開始時から各制作陣に最終回を共有し、2016年3月の原作完結と実写映画『暗殺教室~卒業編~』公開、その後のアニメ第2期まで同じ年に物語の結末へ到達する構成が取られた。漫画と映像作品を「卒業」というゴールへ向けて連動させた点も、本作を語るうえで外せない特徴である。
おすすめポイント・感想・レビュー
月を破壊するほどの力を持ち、マッハ20の速度で移動する謎の生物が教師になって、中学生がそいつを暗殺する。
文字にするとかなり奇抜な設定。そして出落ちのような容姿の主人公、殺せんせー。
そんなふざけた設定でも、笑えて、熱くて、泣ける。ちゃんと学園ものの王道漫画に仕上げてしまうところは、さすが松井優征。
『魔人探偵脳噛ネウロ』と比べると毒気やブラックさはかなり控えめですが、その分、間口が広く、万人向けに読みやすくなった印象です。
やってることは暗殺なのに、めちゃくちゃ真っ当な教師漫画
設定だけみればとんでもないのに、奇抜な部分を取っ払ってみると実は驚くほどに王道な教師ドラマなんですよね。
新任の教師が、問題児ばかりのクラスの生徒と向き合って、次第に教室が一つにまとまっていく…。逆に教師ドラマとしては、特に目新しい部分はないぐらい。まるで金八先生を見ているような安心感です。
成績による差別や学校内の序列、親からの期待など、意外と現実的な問題にも踏み込みながらも、暗殺と絡めてちゃんとエンタメとして読みやすい。勉強という地味になりがちな題材なのに、試験までまるでバトル漫画のように熱く見せてくれます。
王道な教師ドラマを、暗殺とギャグを絡めることで、唯一無二の個性的な作品にしているのがすごい。
殺せんせーは生徒の苦手な部分を責めるのではなく、一人ひとりの長所を見つけ、それぞれに合った方法で伸ばしていく。
生徒は先生を殺すために成長し、先生は自分を殺せるよう生徒を育てる。この矛盾が面白いんですよね。
殺せんせーをはじめとしたクセの強い教師陣
この作品、やっぱりなんといっても殺せんせーが魅力的すぎる。松井優征作品の中でも屈指の愛されキャラです。
マッハ20で動く超生物、地球破壊を予告する敵…なのに生徒思いの名教師。教師としては有能なのに、スケベだったり調子に乗ったり、妙な弱点もどんどん出てくる。この「完璧なのに完璧じゃない先生」な感じがいいんですよね。
生徒たちが、暗殺のために殺せんせーの弱点を探れば探るほど、新たな一面が出てきて親しみが湧いてしまう構造が上手い。気づけば暗殺対象ということを忘れそうになります。
殺せんせー以外のE組を指導する2人も、防衛省所属で生徒たちに暗殺技術を教える烏間先生、元殺し屋で、語学や色仕掛けを武器にするビッチ先生と、それぞれが殺せんせーにはない部分を補っているのもいい。っていうかちゃんとした教師がどこにもいない。笑
だからこそ、殺せんせーとは教育方針が真逆で、対照的な教育者として君臨し、学校パートでの最終ボスともいえる浅野学長の存在も際立ちます。
また、殺せんせーへの刺客として送り込まれてくる殺し屋たちも、それぞれに考えや背景があって、まるで非常勤講師のように、暗殺を通して間接的に、生徒たちを成長させていくのも面白い構造です。
読むほど好きになる個性豊かな3年E組の生徒たち
最初は正直、生徒多くて覚えらんないよと思ってました。でも読み進めるほど、ちゃんと一人ひとりが見えてくる。
それぞれに活躍する場面が用意され、徐々にクラスそのものへ愛着が湧いてくる作りになっています。
- 潮田渚:小柄で目立たないけど、観察力と気配を消す才能があり、標的の隙を見抜く暗殺が得意。
- 赤羽業(カルマ):素行に問題あり。でも頭の回転と身体能力に優れ、奇策や直接戦闘に強い。
- 奥田愛美:コミュニケーションは苦手だけど、化学が得意。毒や薬品を武器に暗殺へ挑む。
- 竹林孝太郎:運動は苦手だけど、理系科目や電子工作に強く、装置や仕掛けで暗殺に貢献。
- 菅谷創介:勉強は苦手だけど、絵や造形が得意。変装や偽装、小道具作りで力を発揮する。
- 千葉龍之介:口数が少なく目立たないけど、射撃はクラスでもトップクラス。狙撃手として活躍。
- 寺坂竜馬:勉強も暗殺も苦手なガキ大将。でも人を巻き込む力があり、E組をつなぐ存在になる。
などなど、それぞれに得意不得意があり、殺せんせーの教育を通して自分の長所や武器に気づき、それを暗殺に活かしていく。
誰か一人だけが活躍するのではなく、エピソードごとに見せ場があり、それぞれが自分の武器を見つけていく過程が楽しめます。
そして暗殺方法にもその個性が出るのが面白い。気づけば特定の生徒だけではなく、3年E組そのものが好きになっていました。
いろいろ詰まっているのに、全部ちょうどいい
- 殺せんせーの命を狙う刺客、暗殺者との戦い
- 底辺のE組とトップのA組との対立
- 教育方針の異なる殺せんせーと浅野学長との対立
- それぞれに悩みを抱えた3年E組の生徒たちの成長
- 希望の進路へ挑む、受験戦争
『暗殺教室』って、本当にいろいろやってるんですよ。
- 殺せんせーは何者なのか
- なぜ1年後に地球を破壊するのか
- なぜ教師になったのか
- なぜ3年E組を選んだのか
それに加えて、殺せんせーという大きな謎もあって、1年弱という限られた期間の中で、追うべきストーリーの軸が複数存在します。
これだけ詰め込めば普通はどこか散らかりそうなのに、全部がちゃんと、じわじわと回収されていくんです。
さらに、学園祭や体育祭、修学旅行、期末テストなどの学園漫画で必須のイベントもきっちりこなしながら進んでいくからすごい。
真実が明らかになるスピード、それぞれの決着へ向けて盛り上がっていくテンポ、そして全21巻という長さ。すべてがちょうどいい。
「卒業」が近づくほど寂しくなる構成がうまい
最初から翌年3月という期限が決められているのも『暗殺教室』のうまいところ。
序盤では、地球を救うために殺せんせーを暗殺しなきゃいけないタイムリミット。でも物語が進むほど、それが殺せんせーと一緒にいられる残り時間へ変わっていくんですよね。
読んでいるこっちも、これ以上好きになったら別れがつらくなるぞと思うのに、どんどん好きになるから困る。
最初から卒業することは分かっているのに、近づいてほしくない。読者の感情までコントロールしてくる松井優征。いや、これはズルい。
最終回に向けて少しずつ涙腺の蛇口を緩められてる気分。そりゃ泣くわ。笑
こんな人におすすめ
教師と生徒が一緒に成長していく学園漫画が好きな人には、かなりおすすめです。
明るいギャグだけでなく、殺せんせーの正体や地球滅亡をめぐる謎もあるので、先の展開を予想しながら読むのが好きな人にも合うはず。
初めての松井優征作品としても入りやすく、全21巻と完結まで一気読みできる作品を探している人にもちょうどいい長さの作品ですよ。
殺せんせーの正体と過去
あれだけ生徒思いだった殺せんせーが、かつて「死神」と呼ばれた凄腕の殺し屋だった。
この事実から、雪村あぐりとの出会い、人体実験によって超生物となり、そして3年E組の教師になるまでが、回想という形で一気に語られます。
いろいろな謎が一気につながる見せ場ですが、何がすごいって、後出し感を一切感じさせないのがすごい!
明かされる事実は初めて知るものばかりなのに、これまでの物語の中に要素が散りばめられているから、答え合わせに近いんですよね。
特に殺せんせーの正体が、誰も顔を見たことのない伝説の殺し屋「死神」だったというネタバラシ。やり方を間違えれば「カツマタ君だろ」ばりに読者を置いてきぼりにしてもおかしくないところです。笑
でも、先に「死神」を名乗る殺し屋を登場させて読者をミスリードし、さらに殺せんせーとの因縁まで匂わせていたことで、「そういうことだったのか!」に変えている。ここは本当にうまい。
謎が解けてスッキリさせるパートなのに、同時に殺せんせーへの愛着がさらに増してしまう。困ったもんです。
過去を知ったことで「殺せない」に変わる
ここまでずっと卒業までに殺せんせーを暗殺する話だったのに、過去を知ったことで一気に意味が変わります。
「3月までにこの先生を殺す必要がある」ではなく、「この先生を殺さなければいけないのか」になる。
当たり前といえば当たり前なんですが、ここで初めて別れが現実味を帯びるんですよね。
読者目線でも、最初から別れのラストは予想できていたはずなのに、殺せんせーがいなくなる最終回がリアルに想像できた瞬間。
そして、そのシーンがきたら泣くことが確定した瞬間である。笑
最後は生徒たちの手で
助ける方法が見つかりそうになったところから、今度は、兵器によって殺せんせーが追い詰められる。
そして最後は、どうせ殺されるなら自分たちの手でという結論へ向かう。この殺す展開に再び引き戻す流れが本当にうまい。
最後は3年E組のみんなに押さえられた殺せんせーが、最後の出席を取る。生徒の名前を呼んでいくのがもうダメ。涙腺崩壊。
そして、渚がナイフでとどめを刺す。
第1話からこのラストまでブレずに描ききったのはすごいなぁ。
最初から「先生を殺す漫画」だったのに、本当にその瞬間が来るとこんなに殺してほしくなくなるとは。
その後も必要以上に暗くせず、教師になった渚や、3年E組の生徒たちの未来を少しだけ見せて締めるところまで完璧です。
欲を言えば、未来の時間はもう少し読んでみたかったけど、松井優征がここまでと判断したのなら、これが一番「ちょうどいい」のでしょうね。笑
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起立!礼!ロックオン!
あとがき
だめだ、書くことまとまらなくて長くなりすぎた。この記事も殺せんせーにマッハで手入れしてもらいたい。笑
最初からゴールを決めて、結末に向かって進んでいく構成だからっていうのもあるんだろうけど、それにしても最後までブレない。
完結まで読んでこそ、構成のうまさを改めて実感できますね。これはもう良作ではなく、名作といって差し支えないでしょう!
読者にとってちょうど良いってこれくらいだぞというお手本のような作品。引き伸ばしがすぎるあの漫画家やあの漫画家にも見習ってほ……モゴモゴ。
ただ、最初から最終話まできれいにまとまっているだけに、「え、そこに行くの!?」みたいな予想外の驚きは少なかったかな。
藤田和日郎作品みたいに、風呂敷を広げて広げて最後に一気に畳むタイプではないので、このへんは好みの問題ですね。
それにしても、アニメ終了から10年でまさか新作の劇場アニメやるとは思ってもみなかったな。アニメ人気といい、世間的な知名度といい、今や完全に代表作といっていい作品になっちゃいましたね。
この流れで今の技術でネウロのアニメもリメイクしてくれないかなぁ。
松井優征のおすすめ漫画作品ランキングもチェック!
『魔人探偵脳噛ネウロ』よりクセは抑えめなので、松井優征作品を初めて読むなら『暗殺教室』で間違いないと思います。
そして気に入ったら、そのまま『ネウロ』へ。逆方向に行くと、だいぶ毒が濃くなります。笑
松井優征は1作気に入ったら、そのまま作家買いしてもハズレの少ない漫画家だと思います。どの作品から読むか迷ったら、おすすめ順にランキングで紹介しているので、そちらも参考にどうぞ。
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