鬱漫画でおすすめの作品は?と聞かれたら、鬼頭莫宏(きとうもひろ)は外せない漫画家でしょう。
一見すると繊細で可愛らしい絵柄を描く漫画家ですが、油断してはいけません。その作品にはグロ描写や鬱展開がてんこもり。『なるたる』『ぼくらの』に代表される、容赦のない展開と独特の後味で知られる漫画家です。
また、「間」の使い方もうまい。セリフで全部説明するのではなく、表情や視線、沈黙、何気ない会話でじわじわ感情を伝えてくる。細く繊細な絵柄と淡々としたテンポも相まって、静かな場面ほど不穏だったり、ちょっとした優しさがやけに沁みたり。この独特の空気感がクセになります。
…と、まあどうしても鬱漫画と呼ばれる作品の紹介がメインになってしまいますが、その一方で趣味漫画とでもいうべき、まったくテイストの違う作品も描いています。
『なるたる』では少年少女と異形の存在を通して人間の危うさを描き、『ぼくらの』では巨大ロボットものを命がけの選択の物語へ。そして『のりりん』では一転、自転車の楽しさや人間関係をじっくり描いています。作品の振り幅はかなり広いのに、どれを読んでも「あ、鬼頭莫宏だ」と感じる作家性の濃さも魅力です。
しんどい。切ない。そして、読み終わってもなかなか頭から離れない。そんな読後までズシンと残る鬼頭莫宏のおすすめ作品をランキング形式で紹介します!
9位 双子の帝國(ふたごのていこく)
30秒でわかる作品紹介
『双子の帝國』は、戦艦が空を飛び、光国と大陸が争う架空の世界を舞台にした戦争ファンタジーです。
主人公は、漂泊の民「空霞」の生き残りである少年・ガウ。触れた者を死に至らしめる謎の少女・フアとともに、彼女の呪いを解くため、死滅したとされる魔法使いを探す旅を続けていきます。
空飛ぶ軍艦や戦闘機、魔法が入り混じる独特な世界観に加え、民族や戦争といった重いテーマまで描かれる、鬼頭莫宏らしいSFファンタジーです。
ランキングの理由・推しポイント
構想10年というだけあって、とにかくスケールがでかい。空飛ぶ軍艦や魔法、民族同士の対立など、さまざまな要素が詰め込まれています。
ただし、残念ながら物語が大きく動き始め、世界の全貌も少しずつ見えてきたところで止まっています。
面白くなりそうな要素はたっぷりあるだけに、いつか続きが読みたいですね。
無料立ち読み
8位 なにかもちがってますか
30秒でわかる作品紹介
『なにかもちがってますか』は、超能力を持つ中学生・日比野光(ミッツ)と、その力を使って世直しをしようとする転校生・一社高蔵(イッサ)を中心に描くSF漫画です。
「間違ったことをする人間は排除すればいい」というイッサの極端な考えに巻き込まれ、ミッツは超能力を使った世直しに手を貸すことに。
中学生らしい危うい正義感や倫理観を、どこか淡々とした空気で描いていくのが特徴です。
ランキングの理由・推しポイント
あの『なるたる』『ぼくらの』を描いた作者なんだからそれなりの覚悟をして読まないと…と思って読んだ人はきっと、あれ?と拍子抜けしてしまうような爽やかさ。
やっていることだけ見ればかなり重いはずなのに、なぜか妙にあっさり読めてしまう。不思議な作品です。
イッサの「世の中の間違いを正す」という理屈が、頭でっかちな中学生らしさ全開。そこにミッツが巻き込まれていくんですが、殺人まで扱っているわりに重苦しくありません。
鬼頭莫宏の作品って、この淡白さにむしろ黒さや怖さを感じるんだけど、今作はそこまででもなかったかな。
ただ、個人的には終盤もかなりあっさり。もう少し掘り下げてほしかったところもあり、今回は8位にしました。
全5巻と短く、鬼頭莫宏作品の中でもかなり読みやすい一作です。
無料立ち読み
7位 終わりと始まりのマイルス(おわりとはじまりのマイルス)
30秒でわかる作品紹介
『終わりと始まりのマイルス』は、万物が宙に浮かぶ不思議な世界「オービスワーヌス」を舞台にしたファンタジー漫画です。
主人公は、物に宿った「炁(き)」を祓う炁祷師(きとうし)の少女・マイルス。巨大な戦艦から人の姿へと権化した炁神・ギカクと暮らしながら、さまざまな炁物(きぶつ)にまつわる出来事に関わっていきます。
独特な世界設定と、マイルスとギカクのにぎやかな日常。その裏側にある生と死まで描かれる、ちょっと不思議なファンタジーです。
ランキングの理由・推しポイント
万物が宙に浮き、人の思いが物に宿って「炁物」になるという独特すぎる世界観。巨大戦艦が人の姿になったギカクをはじめ、鬼頭莫宏の想像力がこれでもかと詰まっています。
ただ、『終わりと始まりのマイルス』は、掲載誌の休刊によって長らく続きが単行本化されず、未完に近い状態になっていた作品。
2024年には単行本未収録だった200ページ超に122ページの描き下ろしを加えた完全版が発売され、ようやく物語にも一応の区切りがつきました。
もっとこの世界を見ていたかった気持ちもありますが、ひとまず形になってくれたのはうれしいところ。でもやっぱり、「とりあえず着地点まで描きました」という感じは否めません。
この物語を122Pでまとめちゃうのは、やっぱりもったいない。
無料立ち読み
6位 のボルダ
30秒でわかる作品紹介
『のボルダ』は、23歳の会社員・森下藤子を主人公に、ボルダリングの楽しさや奥深さを描いたスポーツ漫画です。
2日に1回はジムへ通うほどボルダリングにハマっている藤子。壁に設定された「課題」に挑みながら技術を磨き、ジムで出会った人たちとの交流や恋愛を通して、その世界を広げていきます。
競技で頂点を目指すというより、趣味としてボルダリングを楽しむ人たちの日常が中心。初心者にも分かりやすく、その魅力をじっくり教えてくれる作品です。
ランキングの理由・推しポイント
『のりりん』に続く、人が死なない平和シリーズ第二弾。笑
こちらも、鬼頭莫宏自身の趣味と経験をもとに描かれた作品ですね。
派手な大会やライバルとの勝負ではなく、ボルダリングそのものの面白さを、かなり丁寧に描いています。
全4巻と短めですが、しっかり完結しているので、鬼頭莫宏の趣味漫画を気軽に読んでみたい人にもおすすめです。
無料立ち読み
5位 殻都市の夢(かくとしのゆめ)
30秒でわかる作品紹介
『殻都市の夢』は、かつて存在した巨大な「外殻都市」を舞台に、そこで暮らす人々の物語を描いたSFオムニバスです。
妻の過去まで独占しようとする男、人ならぬものを愛した男、生きた書庫として禁制の本を所蔵する少女など、エピソードごとに主人公は変わりますが、舞台となる世界は共通。
さまざまな愛の形や生と死、人間の危うさを描いていく、鬼頭莫宏らしさの詰まった作品です。
ランキングの理由・推しポイント
一話ごとに物語は独立していますが、すべて同じ「外殻都市」を舞台にしているのが面白いところ。
しかも、もともと第1話は読切として描かれた作品。それが同じ世界やキャラクターを使って描くうちに「外殻都市」シリーズとなり、最終的に『殻都市の夢』という一つの作品にまとまったという、ちょっと変わった成り立ちをしています。
相手を思う気持ちが執着や狂気へ変わったり、人ではない存在を愛したりと、なかなか一筋縄ではいかない。SFの不思議な世界観の中で、人間の愛や生と死を描いていく鬼頭莫宏らしい作品です。
オムニバスですが、世界観が統一されているので、一話ずつ独立しながらも作品全体としてつながりを感じられるのもいいところ。
鬼頭莫宏のSFと人間ドラマをギュッと味わえる一作です。
無料立ち読み
4位 ヴァンデミエールの翼(ヴァンデミエールのつばさ)
30秒でわかる作品紹介
『ヴァンデミエールの翼』は、魂を宿した自律人形「ヴァンデミエール」を主人公に、自由と自立をテーマに描いたSFファンタジーです。
物語は一話完結型で、それぞれ異なるヴァンデミエールが登場。人形でありながら自らの意思を持つ彼女たちは、自分を縛る創造主や境遇から解放され、自由に生きることを求めていきます。
異国情緒のある世界と、飛べない翼を持つ人形たち。幻想的な雰囲気の中に、残酷さや生と死まで入り混じる独特な作品です。
ランキングの理由・推しポイント
『殻都市の夢』が「外殻都市」という場所を軸にしたオムニバスなら、こちらはヴァンデミエールという人形を軸に描かれるオムニバス作品。
なんといっても、この作品は雰囲気がいい。
異世界のような街並みに、意思を持って動く人形、そして背中には飛べない翼。そんな不思議な世界の中で、ヴァンデミエールたちが自由を求めていくという設定が、なんとも独特です。
もちろん鬼頭莫宏作品なので、「自由になりたい!」「はい、なれました!」なんて簡単な話ではありません(笑)。結構えげつない展開も多く、その中で自由や自立、生きることについて描いていきます。
ちなみに本作は鬼頭莫宏の連載デビュー作ということもあって、線も細く、人物の描き方にも今よりクセがあるので、最近の作品の感覚で読むと少し取っつきにくさはあるかもしれません。
ただ、そのちょっと一般的ではない絵柄が、人形や異世界のような本作の雰囲気には妙にハマっています。
ストーリーを追うだけでなく、この不思議な世界観や雰囲気にどっぷり浸かって読むのもおすすめ。ファンタジーや少し哲学的な漫画が好きな人には、かなりハマる作品だと思います。
無料立ち読み
3位 のりりん
30秒でわかる作品紹介
『のりりん』は、自転車嫌いの28歳・丸子一典(通称ノリ)が、ひょんなことからロードバイクの世界へ足を踏み入れていく自転車漫画です。
免許取り消しをきっかけに、女子高生ロードレーサー・織田輪から自転車を勧められたノリ。最初は嫌々だったはずが、実際に乗り、自転車を選び、仲間と走るうちに少しずつその魅力にハマっていきます。
レースだけではなく、自転車そのものの楽しさを初心者目線で描いていく、大人のための自転車漫画です。
ランキングの理由・推しポイント
『なるたる』『ぼくらの』の作者が描いたとは思えないくらい爽やか。鬼頭莫宏作品だからと身構えて読むと、「あれ、いつまで経っても人が死なないぞ?」となります。笑
何よりいいのが、自転車を毛嫌いしていたノリが、いきなり自転車大好き人間になるわけではないところ。実際に乗って、パーツを選んで、仲間と走って…。そうして少しずつ自転車がある生活が当たり前になっていく。その過程を見ているのが楽しいんです。
後の『のボルダ』もそうですが、まさか鬼頭莫宏が趣味漫画を描いてくるとは思ってもみなかった。
一般的なレース主体の自転車漫画とは違い、「自転車のある生活」そのものを丁寧に描いているのも面白い。
専門的な話も出てきますが、主人公自身が初心者なので入りやすい。自転車に興味がなくても、ノリと一緒にロードバイクの世界を知っていけるのが本作の大きな魅力です。
無料立ち読み
2位 なるたる
30秒でわかる作品紹介
『なるたる』は、小学6年生の少女・玉依シイナと、不思議な生き物「ホシ丸」との出会いから始まるSF漫画です。
祖父母の暮らす島でホシ丸と出会ったシイナ。しかし、やがて同じように謎の存在「竜の子」とつながった少年少女たちが現れ、それぞれが抱える悩みや感情とともに、物語は少しずつ不穏な方向へ進んでいきます。
かわいらしい絵柄と親しみやすい導入からは想像できない、人間の悪意や孤独、生と死まで描いた鬼頭莫宏の代表作です。
ランキングの理由・推しポイント
第2位は『なるたる』。ハートフルボッコという言葉は、この作品のためにある!
かわいい絵柄で始まるのに、内容はかなり重め。「鬱漫画」「トラウマ漫画」として有名ですが、単純にエグいだけの作品じゃありません。
何よりうまいのが、日常の中に少しずつ違和感を積み重ねていくところ。何が起こっているのかよく分からないのに、ずっと何かがおかしい。このじわじわ迫ってくる不穏さがたまりません。
さらに、多感で不安定な少年少女に「竜の子」という強大な力を与えてしまう設定。思春期の感情とSFが結びつき、人間の弱さや悪意まで容赦なく描いていきます。
かわいい。怖い。よく分からない。妙にリアル。でもやっぱり怖い。このアンバランスさこそ『なるたる』。
謎の多い世界観や考察しがいのある構成も大きな魅力。読後のモヤモヤも含めて強烈に頭に残る作品です。
無料立ち読み
1位 ぼくらの
30秒でわかる作品紹介
『ぼくらの』は、巨大ロボット「ジアース」に乗り、地球を守る戦いに巻き込まれた少年少女たちを描くSF漫画です。
自然学校に参加していた子どもたちは、「敵を倒して地球を守る」というゲームに軽い気持ちで参加。しかし、それはゲームなどではなく、選ばれた一人がジアースを操って本当に敵と戦うというものでした。
しかも、戦いに勝っても操縦者を待っているのは死。いつ自分の番が来るか分からない極限状態の中で、それぞれが残された時間をどう生きるのかを描いていきます。
ランキングの理由・推しポイント
鬼頭莫宏のおすすめ漫画、第1位は『ぼくらの』。
『なるたる』の重さはそのままに、「でも一般層にも届く作品に仕上げました」とでもいうような絶妙なバランスの作品です。
初めてこの作品を読んだ時の衝撃はすごかった。
「戦って負ければ地球が滅び、勝っても自分は死ぬ」という逃げ場のない設定。しかも、いつ自分の順番が回ってくるか分からない。この絶望感がすごい。
敵を倒すごとに仲間が1人ずつ減っていく。しかも、戦った者は必ず死ぬという、超ヘビーな聖闘士星矢方式。笑
ロボット漫画というイメージで読んでないならもったいない。本当に面白いのは巨大ロボットでの戦いよりも、その状況に置かれた少年少女たちの人間ドラマです。
家族との関係や抱えている悩みも、生き方も死との向き合い方も一人ひとり違う。全員が一致団結して地球を守るような話でもありません。まさに、極限状態に置かれた人間を描いた群像劇といった感じ。
鬱漫画としてのランキングなら『なるたる』を選びますが、鬼頭莫宏作品の中で一番おすすめしたい漫画はやっぱりこっち。
無料立ち読み
あとがき
良かったら好きな作品教えて下さい!
やっぱり『ヴァンデミエールの翼』『なるたる』『ぼくらの』っていう流れは強すぎるな。
描く作品がことごとく鬱漫画ランキングにエントリーしてくる漫画家なんて、そうはいないでしょう。これだけクセの強い世界や設定を次々と考えられるのは、やっぱり天才的。
絵柄と内容のギャップが有名だけど、ジメジメした雰囲気ではなく、どこかドライな描き方をするのも特徴的ですね。ある意味読者を突き放すタイプ。
初期の岡本倫なんかも似た雰囲気あったけどちょっと違うんだよな。岡本倫はエログロやギャグの方向が強めだしね。むしろ作風は違うけど、淡々とした残虐描写とか、セリフの間の取り方なんかは岩明均とも似てるかも。
あまりにジャンルが違うので、『なるたる』や『ぼくらの』のような漫画を探している人に「これもおすすめだよ」とは言いづらいけど、趣味系の漫画も面白い。
病気による右手の麻痺から作品の休載が続きましたが、その後は漫画原作という形での活動を経て、『のボルダ』では自身で作画する連載にも復帰した鬼頭莫宏。
無理はしてほしくないけれど、いつかまた『ぼくらの』のような絶妙なバランスの傑作が読めたら嬉しいです。
合法的に漫画を安く・無料で読む方法!
とにかくたくさんの漫画を読みたい方のために、70~90%OFFで購入する方法や、無料で読める作品など、漫画を安く読む方法を紹介しているのでチェックしてみてください。

