『特攻の島』の感想・レビュー|人間魚雷「回天」搭乗員の葛藤を描く戦争漫画【佐藤秀峰】

特攻の島

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『ブラックジャックによろしく』や『海猿』など、命や仕事、人間の葛藤を真正面から描いてきた佐藤秀峰(さとうしゅうほう)が、太平洋戦争を題材に描いた作品が『特攻の島(とっこうのしま)』です。

テーマは、人間魚雷「回天」。

死ぬことが決まった若者たちは、何を考え、何のために自分の命を使おうとしたのか。

佐藤秀峰らしい鬼気迫る作画と人間ドラマで、「生きること」と「死ぬこと」の意味を強烈に問いかけてくる戦争漫画です。

あらすじ

『特攻の島』は、太平洋戦争末期を舞台に、人間魚雷「回天」へ志願した若き海軍兵士たちを描く戦争漫画である。

昭和19年9月、主人公・渡辺裕三は、生還を前提としない特別攻撃兵器の搭乗員として訓練基地へ送られ、そこで初めて回天の実態を知る。迫る出撃命令を前に、仲間と支え合いながら過酷な訓練を重ねる一方、家族への思いや死への恐怖、自らの使命との葛藤に向き合っていく。

戦場での戦闘ではなく、出撃までの限られた時間を丁寧に描くことで、極限状態に置かれた若者たちの心情や命の重さ、戦争の理不尽さを静かに問いかける作品である。

作品解説

『特攻の島』は、漫画家・佐藤秀峰による戦争漫画。

実在した特攻兵器「回天」と史実をもとに、綿密な取材や資料を反映した重厚な物語を構築。派手な戦闘描写ではなく、兵士や指揮官、家族それぞれの視点から人間ドラマを積み重ね、戦争という極限状況で揺れ動く人々の心を深く描いている。

戦争の善悪を単純に語るのではなく、人はなぜその選択をしたのかを読者へ問いかける作品として高く評価されている。

『週刊漫画TIMES』で連載され、全9巻で完結。完全版では連載時のカラーページも再現されている。

「死ぬこと」が決まった人間は何を思うのか

おすすめポイント・感想・レビュー

ただでさえメッセージ性が強く、重いテーマを描いてきた佐藤秀峰。そんな漫画家が戦争漫画を描いたら…。そりゃ軽い作品になるわけがない!

全9巻と聞くと比較的読みやすそうに見えますが、実際に読んでみるとおそろしく密度が濃いです。乗って発進すれば死ぬことが前提の兵器を題材に、むしろよく9巻も描いたなと思うほど。

戦争漫画といっても、派手な戦闘でグイグイ読ませる作品ではありません。

死が決まった人間は何を考え、どうやってその現実を受け入れるのか。戦争を描きながら、生きることそのものを問いかけてくる作品でした。

人間魚雷「回天」を題材にした戦争漫画

戦争漫画の中でも、人間魚雷「回天」を題材にした作品は珍しく、この切り口だけでもかなり異色です。

特攻と聞くと、神風特別攻撃隊のような航空機による体当たりを思い浮かべますが、戦争末期には有人ロケット兵器の桜花、特攻艇の震洋など、さまざまな特攻兵器が投入・準備されました。

その中で『特攻の島』が描くのが、人間魚雷「回天」です。

通常の魚雷と違い、人間が乗り込んで操縦し、針路を修正しながら敵艦を狙う。

言葉にしてしまえば簡単ですが、通常の魚雷は発射後に敵艦を見ながら針路を修正できない。ならば「人間そのものを誘導装置にすることで命中率を上げられるのではないか」というとんでもない発想の兵器…。

しかも発進すれば、生還は望めない。

この「必死」が最初から決まっている兵器だからこそ、ここまで人間の生と死を掘り下げられたんだと思います。

死を前にした人間の葛藤がとにかく重い

死に対する葛藤ときくと、今の価値観だと「死への恐怖」という部分がメインに感じますが、『特攻の島』で描かれるのは、単純な「死にたくないから逃げたい」という葛藤だけではありません。

当時の価値観の中で、「国のために死ぬ覚悟はある」という前提で話は進む。

じゃあ、「自分は何のために死ぬのか」…ここで悩むんですよね。

死ぬ覚悟はある。でも、意味のない死は嫌だ。

この微妙な違いが、ものすごく重い。

だからこそ自分の命に意味を見つけようともがく登場人物たち一人ひとりの覚悟や葛藤がじわじわ刺さってくるんです。

戦争そのものより、極限状態に置かれた人間の葛藤を描いている点が最大の魅力です。

鬼気迫る作画と演出で息が詰まる

そして佐藤秀峰、やっぱり絵がうまい。うまいっていうか、もうすごい!

潜水艦や回天の描き込みも細かく、狭い艦内は見ているだけで息苦しい。この漫画、本当に読んでいて疲れるんですよ。(もちろん褒め言葉です)

なかでも特に「顔」です。

物語が進むにつれて、渡辺の顔がどんどん変わっていくんですよ。別人になるという意味ではなく、仲間の死を目の当たりにして、自身の死について考え続け、向き合った人間の顔になっていく。

その心の変化を絵で表現できるのが、佐藤秀峰のすごさ!

さらに友人や仲間たちが、出撃を前に最期に見せる表情も強烈で、ずっと印象に残っています。

恐怖や迷い、覚悟など、言葉にしづらい感情まで彼らの顔から伝わってきます。

こんな人におすすめ

戦争漫画ではありますが、戦闘シーンを楽しみたい人より、戦争の中で生きた人間を描く物語が好きな人におすすめです。

特攻へ向かった人間を描く『永遠の0』や、戦時下の日常を描く『この世界の片隅に』が好きなら、刺さる部分は多いはず。

ただし、気軽に読める作品ではありません。

爽快感とは真逆だし、読んでいて苦しいし、読み終わってもスカッとしない。むしろズーンと残ります。

エンタメとしての爽快感より、読み終わったあとに何かが残る漫画を探している人におすすめです。

実在人物と架空人物が入り交じる物語
実は『特攻の島』では、実在の人物も多く登場しています。

仁科関夫や板倉光馬、勝山淳など、実際に回天に関わった人物が登場する一方、物語の中心となる渡辺や関口政夫は架空の人物です。

綿密な取材に加えて実在の人物まで登場するので、読んでいると「これ全部実話なんじゃないか」と思ってしまうほど説得力があります。

そこに渡辺や関口といった架空の人物を入れることで、史実を追うだけでは描きにくい「一人の搭乗員が何を考えていたのか」という心の中まで踏み込んでいく。

これが『特攻の島』のリアルな生々しさにつながっているんだと思います。

それぞれが見つけた「死ぬ意味」
仲間たちの最期はどれも重いですが、特に仁科と関口は忘れられません。

回天の開発に関わった仁科は、自分自身も回天に乗って出撃する。そして関口もまた、自分なりの「死ぬ意味」を見つけて命を使います。

しかも二人とも、渡辺には「生きろ」と託していく。

でも、残された渡辺だって回天搭乗員なんですよね。

この先、おそらく死ぬことが決まっている渡辺に、自分の分まで生きろと託していく。仁科や関口にとっては、自分の命を懸けるだけの意味があったし、その思いは確かに渡辺にも届いている。

でも、読んでいる側からすると、その願いがおそらく報われないことも分かっちゃう。よりによって「生きろ」という願いを託した相手が、生きて帰ることを前提としていない回天搭乗員なんですから。

死に意味を見つけて命を燃やし、最後に誰かへ思いを託す。それ自体は決して無意味じゃないはずなのに、結果だけ見れば意味がなかったようにも見えてしまう。このどうしようもない虚しさがきつい。

それでも、納得できる答えなんて待ってくれない戦争の中で、それぞれが自分なりの「死ぬ意味」を見つけていく姿が胸に残りました。

死ぬ者と、生き残った者
そして、死んでいった搭乗員とは別の意味で印象に残ったのが板倉光馬です。

自らも出撃を望みながら、指揮官として若者たちを送り出し、最後には目にかけていた渡辺にも出撃を命じることになる。

そして、結果として生き残る。これもきつい。

最後に生き残った豊増艦長と板倉少佐が、渡辺の遺書と画帳を読むシーンは泣けました。

ラストまで読み終えると表紙の意味が分かる仕掛けにもしびれましたね。渡辺の文字が逆になってるの全然気づかなかった。笑

もし死ぬことに何か意味を見いだせれば…死は単なる恐怖ではないはずだ…

類似作品 こちらもオススメ!

特攻隊を題材に、生きることと死ぬことの意味を描いていた作品としては、『永遠の0』(須本壮一/百田尚樹)が有名。

戦闘そのものではなく戦時下を生きる普通の人々の日常に焦点を当て、戦争が一人ひとりの人生をどう変えていくのかを描いた『この世界の片隅に』(こうの史代)もおすすめです。

あとがき

いやぁ、重かった。

1話1話の重みがすごくて、読み終わった後に自分がどこにいるのかわからなくなっちゃうくらい。

序盤の密度がものすごかったぶん、終盤はもう少しじっくり読みたかった気持ちもありますが、それでも最後まで強烈な作品でした。

ドラマや映画との相性も良さそうな作品ですが、佐藤秀峰と『海猿』をめぐる映像化のトラブルを考えると…まあ、実現は難しそう…かな?

佐藤秀峰のおすすめ漫画作品ランキングもチェック!

『特攻の島』を読んで改めて感じるのが、佐藤秀峰はやっぱり「人間を追い込む」のがうまい漫画家だということ。

医療、海難救助、戦争と題材はまったく違うのに、極限状態だからこそ見えてくる人間の本音や葛藤を描くのは共通しています。

ほかにも佐藤秀峰らしさが詰まった作品があるので、ぜひ読んでみてください。

→ 佐藤秀峰のおすすめ漫画作品ランキングはこちら

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