『踊れ獅子堂賢』の感想・レビュー|40歳、社交ダンスを始めたら人生が変わった【常喜寝太郎】

踊れ獅子堂賢

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人の悩みや変化を丁寧に描く漫画家・常喜寝太郎(つねきねたろう)が、40歳の二代目社長を主人公に描いた『踊れ獅子堂賢(おどれししどうけん)』。

社交ダンスとの出会いをきっかけに、止まっていた人生が少しずつ動き始めます。

趣味で始めたダンスを軸に、会社経営、恋愛、人間関係まで全てが回りだす、大人だからこそ刺さる成長物語『踊れ獅子堂賢』を紹介します。

あらすじ

『踊れ獅子堂賢』の主人公は、女性用下着メーカー「シェリル」の二代目社長・獅子堂賢、40歳。

父の後を継いで社長になったものの、会社の実権は会長である父が握り、役員や秘書からも軽く見られる日々を送っていた。仕事にも私生活にも自信を持てず、何事にも本気になれない獅子堂が気分転換に昔通っていたボクシングジムを訪れると、そこは社交ダンス教室に変わっていた。

さらに講師を務めていたのは、自ら採用した新入社員・椎名まなか。

思いがけない再会をきっかけに社交ダンスの世界へ足を踏み入れた獅子堂は、久しぶりに夢中になれるものを見つけ、仕事や人生にも少しずつ向き合い始める。

作品解説

『踊れ獅子堂賢』は、漫画家・常喜寝太郎による社交ダンスと大人の再出発を描く青年漫画作品である。

社交ダンスを題材にしながら、会社での立場や父との関係、仕事への向き合い方まで描かれており、スポーツだけでなく仕事漫画としての面白さも味わえる。

昼は社長と新入社員、夜はダンスに取り組む二人という関係も本作ならでは。自信を失っていた40代男性が夢中になれるものと出会い、一歩ずつ変わっていく姿を通して、年齢や立場に関係なく「なりたい自分」を目指す前向きさを感じさせる作品である。

『モーニング』で連載され、全7巻で完結。作者の常喜寝太郎自身も大学時代に社交ダンスを経験しており、卒業後に出場した大会では優勝も経験している。実際に社交ダンスに夢中になった経験が、本作の題材や描写にも生かされている。

踊れば、仕事も恋も人生も動き出す!

おすすめポイント・感想・レビュー

大人になると、生活の中心は仕事になりがち。

そんな、1日の大半の時間を費やすことになる仕事がうまくいかないと、人生全部がうまくいっていない気分になることってあるんですよね。

『踊れ獅子堂賢』が面白いのは、仕事を頑張って仕事を立て直すのではなく、社交ダンスというまったく別の場所から人生が動き始めるところです。

ダンス漫画であり、お仕事漫画であり、恋愛漫画でもある。かなり欲張りな作品ですが、その全部が獅子堂の成長につながっていく。

劇的に別人になるのではなく、新しい趣味がきっかけで、小さな成功を積み重ねながら自信を取り戻していく獅子堂を応援したくなる作品でした。

40歳からの「人生再起動」が刺さる

主人公の獅子堂賢は、もともとはプロボクサーを目指していた過去があり、会社経営どころかサラリーマン経験もない。父の存在も大きすぎて、序盤は自分で何かを決めることすら苦手。

二代目社長という恵まれた立場ですが、中身は悩んでばかり。だからこそ、意外とこっちも感情移入しやすいんですよね。

そんな獅子堂がダンスを始めたことで、いきなり敏腕社長に覚醒!…なんてことにはなりません。

ダンスがきっかけになって、少し自信がついて、ちょっと行動して、また悩む。その積み重ねで少しずつ変わっていきます。

40歳という年齢を「もう遅い」ではなく、「40歳からでも人は変われる」「新しいものに出会える」年齢として描いている。若者の成長漫画とは違う、大人だからこその説得力があって、気づけば「社長、頑張れ」と応援していました。

ダンスをきっかけに人生が変わっていくのが面白い

ダンスパートと会社パートが完全に別々ではなく、ダンスで学んだことが仕事へ、仕事での経験が人間的な成長へつながる。この行き来が本作の面白さです。

社交ダンスは獅子堂にとって仕事とはまったく関係のない趣味。でも、そこで得た自信や人との向き合い方が、少しずつ社長としての自分にも影響していきます。

仕事、人間関係、恋愛といろいろな要素が、ダンスを中心に回り始める。このつながり方がうまい。

まさに「趣味が充実すると仕事にも良い影響が出る」を体現していきます。

仕事がうまくいかないなら、もっと仕事を頑張ろう!ではないんですよね。大人になると忘れがちな「好きなことをする時間」の大切さを、説教臭くなく感じさせてくれるところが好きでした。

恋愛がメインじゃないからこそ二人の関係が気になる

獅子堂とまなかの関係も、なかなか面白いポイントです。

会社では社長と新入社員。でもダンス教室へ行けば、まなかが先生で獅子堂が生徒。見事に立場がひっくり返ります。

常に上下の関係があって、内でも外でも、男と女という単純な立場での関係になりにくい。

しかも年齢差もあるので、お互いに惹かれる部分はありながらも、簡単には恋愛へ進まない。この微妙な距離感がいいんですよね。

婚活したり、ほかの女性と恋愛したりしながらも、まなかとの距離が少しずつ縮まっていく。40歳らしいリアルで遠回りな恋愛が良かった。

社交ダンス漫画を期待するとちょっと違うかも

表紙やタイトルから、ダンス漫画の印象が強いですが、『Shall we ダンス?』的な作品を期待していると、正直ちょっと違うかも。

序盤は確かに、中年男性が社交ダンスを始めるという面白さがメインだし、パートナー探しに、ダンス大会など、ダンスパートでも盛り上がりはちゃんと用意されています。

しかし実際には、ダンス、会社経営、父との関係、恋愛、社内問題と、何章何編やるんだというくらい要素が詰まっています。正直全7巻で扱うボリュームじゃない。笑

あくまでもダンス漫画ではなく「獅子堂賢の成長漫画」として楽しむ作品だと思います。

普通なら「このエピソード削ってダンスを描いてよ」となりそうなんですが、困ったことに仕事漫画としても、中年の恋愛漫画としても、ダンス漫画としてもそれぞれがちゃんと面白いから困る。

ここ広げたらもっと面白くなりそうというパートばかりなので、もっと膨らませて欲しくなっちゃう。

いろいろ詰め込んだからこそ消化不足も残るけど、「ごった煮でどれも中途半端でダメだった」ではなく、「とにかく尺が惜しい」。

すべてをもっと膨らませて、長期で読みたい作品でした。

こんな人におすすめ

特におすすめしたいのは、仕事中心の毎日になっている30代〜50代

仕事とは別に何か夢中になれるものがあるだけで、人生って少し変わるのかもしれない。そんなことを思わせてくれる。

「自分もなんか始めてみようかな」とちょっと思えてくる作品です。

ダンス漫画としては、もっと踊る獅子堂を見たかった
中年が趣味として社交ダンスを楽しむという題材だけで、他のダンス漫画にはない魅力があったので、そこを突き進んでほしかったという気持ちもある。

仕事や恋愛など、他パートが忙しくなるたびに、ダンス教室から足が遠のくのも、大人の習い事としてめっちゃリアルでした。笑

獅子堂は趣味としてダンスを楽しみ、まなかはプロの世界を目指す。この二つのダンスを同時に描いたのも面白かったです。

最終的にはまなかが競技ダンスへ復帰し、天草とのペアでブラックプール優勝までたどり着くので、ダンス漫画としての着地点はきれいです。

獅子堂自身がダンスで頂点に立つのではなく、自分を変えてくれたまなかの夢を支える側へ回る結末なのも良かった。

それでもやっぱり、趣味として踊り続ける獅子堂ももっと見たかったなぁ。

お仕事漫画としても普通に面白い
父の急死、社員の横領、セクハラ問題、SNSでの誤爆、会社合併、敵対的TOB、海外進出…。

いや、ダンスやってる場合じゃないよ。笑

思い出せるだけでもめちゃめちゃ要素多い。よく7巻に入ったなというくらい会社内での事件が描かれています。

でも、この会社パートも普通に面白いんですよね。

序盤では何も決められなかった獅子堂が、最後には自分で決断し、社員からも信頼される社長へ変わっていく。

ダンスの上達以上に、この変化こそ獅子堂最大の成長だったと思います。

恋愛は最後まで遠回り。だからこそ、もう少し欲しかった
世間一般的には高スペックなので、女性もそれなりに寄ってくるし、紹介もある。

  • 行きつけの居酒屋のバイトの女の子に好意を持たれて、ダンスでペアを組むことになったり。
  • そろそろ身を固めようと婚活のためにマッチングアプリ始めてみたり。
  • 別の女性と付き合い始めて結婚を決意したら、その女性がライバル会社の社長の娘だったり。
  • 二代目コミュニティで知り合った社長から、妹を紹介されたり。

いや40歳社長の恋愛、なかなか忙しいな(笑)

このように、意外と恋愛方面も、獅子堂からまなかへの一本軸ではなく、いろいろな女性との恋模様が描かれています。

それがまた大人の恋愛としてリアルっちゃリアルだし、獅子堂とまなかも一定の距離を保ったまま、なかなか恋愛に発展しないのも良かった。

だからこそ、最後には年齢や立場を理由に抑えていたまなかへの気持ちを認めて、想いを伝えるシーンに説得力がありました。

…とはいえ、ちょっとその前の雪見との恋愛を丁寧に描きすぎた気もするなぁ。

最後にまなかへ戻る流れは少し急に感じました。最終回に向けて、無理やりまなかに軸を戻したように見えてしまったのは残念でした。

全7巻というボリュームを考えると、恋愛軸は獅子堂とまなか1本に絞った方が見やすかったとは思う。

ヒロインとの恋愛を全面に押し出さず、絶妙な距離感で進んでいく構成はすごくよかったけれど、二人の立場が特殊で面白いだけに、恋愛面をもっと時間をかけて描いてほしかった。

その後の最終話で、帰国した椎名に獅子堂がプロポーズして物語は大団円。この結末自体は好き。着地点としては文句なしです。

結論:7巻は短い(笑)
ダンス、仕事、恋愛だけでもこれだけ盛りだくさんなのに、元ボクサー仲間の再起戦や、ダンス教室に通う中年男性たちにもそれぞれドラマがあったりと、本当にエピソードが詰めこまれています。

最後は社内で大きなプロジェクトが動き出し、その成功をもってまなかがシェリルを退社します。

その後、仕事で海外へ進む獅子堂と、プロダンサーとして世界へ進むまなか。そして帰国したまなかへのプロポーズ。

ちゃんとハッピーエンドだし、物語としてもまとまっています。

ただ、終盤は要素多すぎて駆け足感もあったし、ラストは仕事もダンスも恋愛も一気に決着するので、「よかった!」と同時に「そこ、あと1巻使って見せてくれ!」という気持ちもありました。

要するにだ。

7巻は短い(笑)。

業界3位の上場企業の二代目社長。

人生どん底…と呼ぶには肩書きが強すぎる(笑)。

類似作品 こちらもオススメ!

社交ダンスを題材にした漫画だと『ボールルームへようこそ』(竹内友)などが有名ですが、『踊れ獅子堂賢』に同じ方向性を期待するとちょっと違います。

主人公の性格は正反対ですが、元ボクサーが、アパレルビジネスを始め、経営者として成長していく様子を描いた『マネーの拳』(三田紀房は、共通点が多いですね。

個人的に一番似ていると思ったのは『釣りバカ日誌』(作:やまさき十三、画:北見けんいち)。会社では社長と平社員なのに、趣味の世界では社員側が先輩になるという関係性が、獅子堂とまなかの構図にかなり近いです。

あとがき

改めて振り返ってみると、書きすぎた。笑

けっこう好きな作品だったんだなぁ。

普通これだけ詰め込んだら「どれか削ればよかったのに」と思いそうなものですが、『踊れ獅子堂賢』の場合は逆なんですよね。どのパートももっと読みたかった。

仕事ばかりの毎日になっている人には、特に読んでみてほしいです。別にダンスじゃなくても、何か新しいこと始めてみようかなという、そんな気分にさせてくれます。

大人になると、こういう時間ってどんどん減っていくんですよね。

家庭でも会社でもない、部活みたいに夢中になれる場所。大人にとって趣味って大事だなぁ…と、漫画を読みながら妙に納得してしまいました。

常喜寝太郎のおすすめ漫画作品ランキングもチェック!

常喜寝太郎って、自分に自信を持てない人や周囲の目を気にしてしまう人を描くのがうまいんですよね。

『着たい服がある』『全部救ってやる』など、本作とはまた違った題材を扱った作品もあります。ほかにどんな漫画を描いているのか気になった方は、おすすめ作品をランキング形式で紹介しているので、ぜひ続けてどうぞ。

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