「グラウンドには銭が埋まっている」。
プロ野球を「カネ」の視点から描いていくのが、漫画家・足立金太郎(あだちきんたろう)が長年描き続けている『グラゼニ』シリーズです。
年俸、査定、契約更改、FA、戦力外。『グラゼニ』が描くのは、華やかなプロ野球の裏にある選手たちの仕事と生活です。
その中心にいるのが、中継ぎ投手としてスタートした凡田夏之介。
契約更改や移籍、球団事情まで物語に取り込みながら、シリーズを追うごとに夏之介の立場や野球人生も変化していきます。『東京ドーム編』『パ・リーグ編』を経て、ついには『大リーグ編』へ。
舞台が変わっても順風満帆とはいかず、そのたびに新しい生き残り方を探していくのがこのシリーズの面白いところです。
今回は、環境が変わるたびに新しいプロの厳しさが見えてくる『グラゼニ』シリーズをまとめて紹介します。
『グラゼニ』シリーズのあらすじ
『グラゼニ』シリーズは、プロ野球選手の「年俸」を切り口に、中継ぎ左腕・凡田夏之介の長い野球人生を描いた作品である。
物語開始時の凡田は高卒でプロ入りして8年目、年俸1800万円の中継ぎ投手。華やかなスターとは違い、いつ戦力外になるか分からない立場で、結果と評価を気にしながら一軍での生き残りを目指していく。
シリーズが進むにつれて所属球団や役割、生活環境も変わり、契約や移籍、故障、家族、将来への不安など、選手生活のさまざまな現実に直面。
年齢を重ねても「野球で食べていく」ために試行錯誤を続ける、一人のプロ野球選手の長いキャリアを追った物語である。
『グラゼニ』シリーズの作品解説
『グラゼニ』シリーズは、原作・森高夕次、漫画家・足立金太郎による青年野球漫画で、『モーニング』を中心に発表されている。
タイトルの『グラゼニ』は「グラウンドには銭が埋まっている」を略した言葉。
本編は『グラゼニ』から『東京ドーム編』『パ・リーグ編』『大リーグ編』へ続き、年俸、査定、契約、移籍など、プロ野球を「仕事」と「お金」の視点から描くのが大きな特徴である。
原作者の森高は中学・高校時代を野球部で過ごし、複数の野球漫画を手掛けてきた。制作では凡田を活躍させすぎないことも意識しており、高年俸のスター選手になれば作品本来の面白さが失われるため、時には打たれる主人公として描いている。
勝ち続けるヒーローではなく、思い通りにならない現実に振り回されながら野球で生きる選手を追い続ける姿勢が、シリーズを通した特徴となっている。
グラゼニ
あらすじ・作品仮説
漫画家・足立金太郎の『グラゼニ』シリーズ第1作。(当時の名義はアダチケイジ)
プロ野球球団・神宮スパイダースに所属する中継ぎ投手・凡田夏之介。プロ8年目、年俸1800万円という微妙な立場にいる凡田は、選手名鑑を読むことが趣味で対戦相手の年俸をチェックし、自分より上か下かまで意識しながら今日もマウンドへ上がるのだった。
試合だけでなく、契約更改や外国人選手との競争、二軍でくすぶる選手、引退後の生活など、さまざまな立場からプロ野球界の日常を描いていく。
基本は1話完結型で進みながら、凡田と定食屋の看板娘・ユキちゃんとの関係や、高校時代を描く「ナッツ編」など継続するエピソードも展開。後のシリーズへつながる凡田の野球人生と人間関係の土台が作られていく。
『モーニング』で連載され、全17巻で完結。2013年には第37回講談社漫画賞一般部門を受賞し、2018年にはテレビアニメ化もされた。
(原作:森高夕次)
おすすめポイント・感想・レビュー
野球漫画といえば、熱い試合にライバルとの勝負、仲間との絆なんかが王道ですが、『グラゼニ』はかなり方向性が違います。
職業として野球をしているプロ野球選手たちにスポットライトがあてられていて、描かれるのは、プロ野球選手としてどう生き残り、どう稼いでいくのかという現実。
どうすれば年俸が上がるのか。どうすれば来年も一軍で飯を食えるのか。契約更改や査定、球団事情まで、普通の野球漫画ではあまり触れないところまでしっかり描いています。
もちろんよくある野球漫画のように都合よく活躍することもありません。
野球そのものより「プロ野球で食べていくこと」を描いた作品です。
「年俸」で野球を描く発想が面白い
やっぱり一番面白いのは、プロ野球を「年俸」という視点から描いたこと。
ただ試合に勝つ、相手を抑えるではなく、どんな場面で、どんな相手を抑えれば評価につながるのか。
主人公の夏之介は中継ぎ投手なので、ただでさえいつ出番がくるかわからない。
もらったチャンスで、首脳陣に何をアピールすれば年俸が上がるのか。そんなことまで考えながら投げています。
これが妙に面白い。一球の見え方まで変わってきます。
『グラゼニ』を読んだ後で実際のプロ野球を見ると「この選手、年俸いくらだろ?」とチェックしたくなるはず。
スターじゃない凡田夏之介だから面白い
主人公の凡田夏之介は、プロ8年目で年俸1800万円の中継ぎ左腕。
一般人から見れば十分すごい金額ですが、プロ野球界では、なんとも絶妙な立ち位置です。
でも、夏之介が1億、2億プレイヤーじゃないからこそ、仕事としてのプロ野球がリアルなんですよね。
選手名鑑をめくりながら、年俸で相手選手を格上、格下と決めつけ、年俸が自分より下のヤツにはめちゃめちゃ強気になるのが夏之介らしくて好き。笑
もちろん、漫画ですのでちゃんと夏之介の活躍も描かれます。その年の活躍によって、夏之介の年俸がいくら上がるのかというのも読んでいて楽しみの一つです。
そんな漫画的見せ場もあり、サクセスストーリーとしても楽しめる作品ではありますが、残念ながらそう簡単にスター選手にはしてもらえません。
原作者の森高夕次も夏之介を活躍させすぎないように意識していたそうで、活躍したと思ったらケガで二軍落ちしたりと、夏之介のプロ野球人生は紆余曲折の連続。
活躍させたい。でも活躍させすぎたら『グラゼニ』じゃなくなる。
神の采配(作者の都合)によって、スター選手にさせてもらえない夏之介。主人公は大変だ。笑
野球漫画というよりプロ野球のお仕事漫画
「金」がテーマにあるので、普通の野球漫画ではあまり取り上げられない部分まで描かれているのも見どころ。
契約更改、トレード、トライアウト、二軍生活、税金、引退後の仕事。
普通の野球漫画ならサラッと流しそうなところを、『グラゼニ』はむしろ喜んで拾いにいきます。
試合より契約交渉の方が面白いことすらある。それがいい。
夏之介だけじゃなく、一度も一軍に上がれない選手、トレードされる選手、かつてのスター、年俸が下がって税金に苦しむ選手、引退後に解説者として頑張る元選手までいろいろな人物にスポットが当たります。
毎回違う角度から、プロ野球という巨大な職場の裏側をのぞいている感覚が楽しい。
野球漫画というより、これはもうプロ野球のお仕事漫画ですね。
シリーズ化するエピソードも面白い
各エピソードは、基本1話完結のかたちで描かれていますが、中には数話ごとに少しずつストーリーが進んでいく、長編のエピソードも挟まれます。
看板娘のユキちゃん目当てで定食屋に通い詰める夏之介の恋愛もそのひとつ。
巻を重ねるごとに少しずつ距離が縮まっていく2人の関係性が楽しい。このくらいのペースが夏之介には似合います。笑
そしてもうひとつ個人的に好きなのが、高校時代の夏之介を描いたナッツ編。
毎回、巻の最後に1エピソードずつ描かれ、夏之介の高校時代が少しずつ明らかになっていきます。
こちらは本編とは違って、かなり純粋な野球漫画。夏之介がどうやってスカウトに見つけられプロ入りしたのか、高校時代に野球部でどんな活躍をしたかが描かれていきます。現在の夏之介とは性格や態度も違っていて面白いです。
さらに、ここで出会った人物たちは、本編の方にも登場してきます。
昔のあの人たちが、プロ野球選手になっていたり、まったく違う職業についていたりと、こんな進路を辿ったんだと想像できて楽しい。
単独の作品として読んでも面白そうだと思っていたら、本当にスピンオフになっちゃいましたね。笑
最後まで「人生はままならない」グラゼニらしい結末
スパイダースとの契約更改がこじれた結果、まさかのアメリカ挑戦へ。
ここまで来たら、最後はメジャーで大活躍して気持ちよく終わるのかなと思うじゃないですか。
『グラゼニ』はそんなに甘くありません。笑
メジャー昇格が見えるところまで結果を残しながら、最後は夏之介の実力とは関係のない球団事情に振り回されて、結局は日本へ帰ることになります。
そこで出てくる「これこそが人生!」「人生とはままならないものでしょ」という夏之介の言葉がいいんですよね。
頑張って結果を出したって、人生は思い通りにならない。
考えてみると、最初はお金目線でプロ野球を描いているのが面白いなぁくらいの感覚で読んでいましたが、いつの間にか凡田夏之介の人生を追いかけることが楽しみな漫画に変わってました。
そしてこの言葉通り、ここから先、長い長い『グラゼニ』シリーズが始まります。笑
最後に凡田の背中を押したのはユキちゃん
日本へ戻った夏之介には、文京モップスと名古屋ワイルドワンズから声がかかります。
どっちへ行くのか。最後くらいビシッと自分で決めるのかと思ったら、なかなか決められない。
夏之介だなぁ。笑
そんな夏之介の背中を最後に押したのはユキちゃんでした。
契約更改で揉めて古巣を離れ、アメリカまで行って、結局また日本へ。野球人生だけ見れば、かなり遠回りしています。
振り回されっぱなしの後半でしたが、ユキちゃんとの関係も含めてきれいに一区切りがつきました。
派手な成功で終わらない。でも、だからこそ『グラゼニ』らしい。いい中締めだったと思います。
無料立ち読み

優勝決定戦よりも、クライマックスシリーズよりも、もちろん日本シリーズ!…よりも契約更改の回が待ち遠しいという珍しい漫画。笑
グラゼニ 〜東京ドーム編〜(グラゼニ とうきょうドームへん)
あらすじ・作品仮説
グラゼニシリーズ第二弾。今作以降、球団移籍に合わせてタイトルを一新するスタイルとなった。
スパイダースで活躍した凡田が、ポスティングシステムでメジャーへ挑戦。しかし、メジャー契約できずに帰国。
受け皿となったのが球界の盟主と言われる名門チームの文京モップス。モップス加入からスタートする本作東京ドーム編。
凡田夏之介は名門チームで生き残ることができるか・・・。
(アダチケイジ名義)(原作:森高夕次)
おすすめポイント・感想・レビュー
主人公が肘を壊してリハビリしたり、育成枠になったりと、相変わらず他の野球漫画では描かれない部分を丁寧に描写しています。
大体にして、主人公がメジャー挑戦したのに、契約できずに帰国する漫画なんて見たことない。笑
今回は球団移籍後のプロ野球選手のリアルが描かれています。移籍して名門チームに移る選手の立場や結果を残さないとファンが黙っていないなど厳しいプレッシャーにさらされているのが良くわかります。
結婚して、家族のためにと頑張りすぎた結果、生命線である肘を痛めてしまうシーンは可哀想だった。
今まで、プロ野球界で生き残っていくことをメインにやってきた夏之介が、チームで結果を残していくことで、徐々に中継ぎ投手から、先発投手としてやっていきたいと気持ちが変わっていきます。前向きになったと思う。
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グラゼニ 〜パ・リーグ編〜(グラゼニ パリーグへん)
あらすじ・作品仮説
グラゼニシリーズの第三弾。
今作では、タイトルのパリーグ編の通り、主人公 凡田夏之介がFA権を行使し3年4.5億円で仙台ゴールデンカップスへと移籍することになる。
移籍直後、パ・リーグの打者とセ・リーグの打者の違いに戸惑いを受け、早くも窮地に陥るが、もがき苦しみながらも試行錯誤を重ね奮闘する夏之介。
また現実世界と同様に全国的に自粛ムードの中、開幕を迎えた夏之介の姿がリアルに描かれている。
おすすめポイント・感想・レビュー
次から次へと訪れるピンチに失敗も多いが、運や人との出会いに恵まれ成長していく夏之介の姿がシリーズ全体を通してこの作品の大きな見どころ。
防御率は悪くても6回までは何とか試合を作る夏之介と布川、本木、薬丸のリリーフ陣(通称アマがき隊)の活躍で夏之介が最多勝争いに加わるシーンは、ありがちなヒーローでなくても、栄誉を掴むことが出来るかもという、この漫画ならではの魅力を感じます。
今回のパ・リーグ編では、夏之介と共に入団したトクちゃんこと徳永ピッチングコーチの活躍にも注目です。
旧知の仲である夏之介への親心が勝負所での采配で裏目に出てしまい、一時は2軍コーチへの配置転換の憂き目にもあいながらも、アマがき隊の抜擢、シーズン最終戦での夏之介のリリーフ起用などコーチとしてシーズン優勝争いの立役者となるシーンが印象的です。
もがき苦しみながらもピッチングコーチとして成長する姿は、個人的にパ・リーグ編の裏の主人公と言っても過言ではないと思ってる。
年齢的にもプロ野球引退が見えてきた夏之介。
今作が、シリーズ最後となるのか…と思ったら再びメジャー!?
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『グラゼニ』シリーズはこんな人におすすめ
いわゆるスポ根より、仕事やお金、人間ドラマを描いた漫画が好きな人にはかなりおすすめです。
野球に詳しくなくても楽しめますが、プロ野球好きなら契約更改やFA、トレード、二軍選手の立場など、普段の中継では見えない部分まで楽しめるはず。
そして、一人の選手が年齢を重ね、所属や立場を変えながらキャリアを積み重ねていく物語が好きな人にもおすすめ。シリーズを追うほど、年俸だけではなく夏之介の野球人生そのものが面白くなっていきます。
あとがき
改めてシリーズを通して見ると、『グラゼニ』ってずいぶん遠くまで来ましたね。
最初は年俸1800万円の中継ぎ投手が、どうやって一軍に生き残って年俸を上げていくのか。
それだけでも十分面白かったのに、気づけば所属球団も立場も変わり、シリーズを重ねるうちに凡田夏之介の野球人生そのものを追いかける漫画になっていきました。
異色な野球漫画として始まった『グラゼニ』が、ここまで一人の選手の人生を長く描くシリーズになるとは思わなかったなぁ。
なんだかんだいって活躍しているはずなのに、気づけば毎回崖っぷちに立たされている夏之介が可哀想。笑
タイトルが変わるたびに別作品っぽく見えますが、夏之介の野球人生はずっとつながっています。なので、これから読むならもちろん無印『グラゼニ』から。
年俸1800万円だった夏之介がどこまで行くのか、ぜひ順番に追いかけてみてください。
足立金太郎のおすすめ漫画作品ランキングもチェック!
『グラゼニ』シリーズをここまで読んできましたが、じゃあ結局どのシリーズが一番面白かったのか。
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