『幽麗塔』の感想・レビュー|怪しく妖しい昭和レトロな怪奇ミステリー【乃木坂太郎】

幽麗塔

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怪しい時計塔、猟奇事件、謎の財宝、そして正体を隠した美青年。

乃木坂太郎(のぎざかたろう)の『幽麗塔(ゆうれいとう)』は、古典探偵小説のような妖しい空気をまといながら、謎解きだけでは終わらない怪奇ミステリーです。

乃木坂太郎らしい美しくも生々しい絵と、読み進めるほど深まっていく人間ドラマも大きな魅力。

古典ミステリーを現代の漫画として再構築したような独特な面白さを持った作品です。

あらすじ

昭和29年の神戸。仕事も金もなく冴えない日々を送る青年・天野太一は、ある仕事をきっかけに、2年前に老女が惨殺された「幽霊塔」と呼ばれる巨大な時計塔へ足を踏み入れる。

そこで白装束の怪人に襲われた天野を救ったのは、頭脳明晰で謎めいた美青年・テツオだった。塔のどこかには莫大な財宝が眠っているという。テツオから宝探しに誘われ、一獲千金を夢見て行動を共にする天野だったが、テツオ自身も本名や素性を隠しており、その存在は多くの謎に包まれていた。

過去の殺人事件、時計塔に仕掛けられた奇妙なからくり、財宝を狙う怪しい人物たち、そしてテツオが抱える秘密。

何を信じればいいのか分からない状況の中、天野は次々と起こる事件に巻き込まれながら、幽霊塔に隠された真相を追っていく。

作品解説

『幽麗塔』は、漫画家・乃木坂太郎による怪奇ミステリー作品である。

黒岩涙香の小説『幽霊塔』をベースに、昭和29年の神戸を舞台とした殺人事件や財宝探し、からくり屋敷の冒険を組み合わせながら、「自分は何者なのか」「男と女とは何か」といった性や自己認識、生き方の問題にも踏み込んでいる。

乃木坂太郎自身もセクシャル・マイノリティという繊細なテーマを試行錯誤しながら描いたと語っており、古典怪奇小説らしい謎と冒険の面白さに、人間の生きづらさや価値観をめぐるドラマを重ねた作品である。

『ビッグコミックスペリオール』で連載され、全9巻完結。2014年度には第14回センス・オブ・ジェンダー賞大賞を受賞している。

怪しく、妖しく、美しい。昭和レトロな怪奇ミステリー!

おすすめポイント・感想・レビュー

江戸川乱歩や横溝正史を思わせるような怪奇ミステリーと、乃木坂太郎の美しくも生々しい絵。もうね、めちゃめちゃ雰囲気ある。

幽麗塔の謎をめぐるストーリーは、サスペンス漫画としてもミステリーとしても読んでいて続きの気になる展開ばかり。塔の中での戦いもハラハラドキドキの連続です。

さらに、読み進めるほど話がどんどん広がっていきます。

登場人物の全員が何かしら人には言えないものを抱えていて、ミステリーの謎解きが進むのと同時に、登場人物の苦悩も明らかになっていく構成が上手い。

昭和レトロ、猟奇殺人、財宝探し、からくり、逃避行、そして性と愛。よくこれだけ詰め込んだなと。

いや、これは面白かった!

謎が謎を呼ぶ!先が読めない猟奇ミステリー

まず上手いのが、とにかく謎を切らさないこと。

殺人鬼の死番虫は誰なのか、幽霊塔の財宝はどこにあるのか、そもそもテツオは何者なのか。

ひとつ謎が解けたと思ったら、また新しい謎が出てきます。登場人物も全員怪しく見えてくるから困る(笑)。

怖いだけじゃなく、時計塔のからくりを解いたり財宝を探したりと、冒険小説みたいなワクワク感があるのも好きなところ。ミステリーと冒険活劇のバランスが絶妙です。

昭和レトロな世界観と、怪しく妖しい絵がハマりすぎ

そして、やっぱり絵がうまい!この昭和レトロな世界観に乃木坂太郎の絵がめちゃくちゃ合っています。

昭和29年の神戸を舞台に、当時の映画や書籍、文化や風俗まで描かれているので、本当にその時代へ入り込んだような感覚。そこへ巨大な時計塔、洋館、怪人、猟奇事件が加わるのだから雰囲気は抜群です。

もちろん人物も呆れるほどうまい。その画力から登場人物の表情だけで感情が伝わってくるほどです。

読み始めたら最後、怪しくて妖しい、独特の空気感に引き込まれること間違いなし!

太一とテツオ、この凸凹コンビがいい!

太一とテツオのコンビも良かったですね。

小心者で欲にも弱く、最初はかなり頼りない太一。一方のテツオは頭も切れて行動力もあり、とにかくカッコいい。でも、自分の身体や生き方には誰より深い葛藤を抱えています。

そんな正反対の二人が財宝探しをきっかけに出会って、一緒に逃げて、戦って、ときにはぶつかって少しずつ変わっていく。

情けなかった太一が少しずつ頼れる男になり、気づけばテツオを支える側にまで成長しているのもみどころです。

お互いを利用し合う関係から、いつしか支え合う存在になっていく二人が良かった。

ミステリーの先にあった「自分らしく生きる」というテーマ

ミステリー漫画として、すでにべらぼうに面白いのに、ただの謎解きで終わらないのが『幽麗塔』のすごいところ。

センス・オブ・ジェンダー賞大賞を受賞したことからも、ジェンダーを扱った作品という点も本作の大きな特長でしょう。

太一やテツオだけではなく、丸部道九郎、沙都子、山科など、脇を固める登場人物もとにかく濃いんですが、それぞれが違った悩みや欲望を抱え、周囲からは理解されにくい生きづらさを背負っています。

人には言いづらい悩みや欲望、生きづらさを抱えた、マイノリティたちの葛藤の物語ともいえると思います。

性別、愛、孤独、家族から押しつけられる価値観。読み進めるほどテーマが広がっていく。

レトロ活劇の裏でセクシャルマイノリティーの苦悩や葛藤もしっかり描かれていて、そちらも読み応え十分。ミステリーだけじゃない、濃厚な人間ドラマが展開されています。

その分、ミステリーだけ読みたいっていう人には人間ドラマが重いかもしれません。

こんな人におすすめ

ちょっと古くて妖しい探偵小説の空気が好きな人にはかなりおすすめです。

ただ、エログロ描写は多少人を選ぶかなと思います。それほどドギツい感じではありませんが。

全9巻で完結しているので、長すぎず、それでいて読み応えのある漫画を一気読みしたい人にもおすすめ。読み始めると止まらないので寝る前は危険です(笑)。

死番虫の正体と幽霊塔の真相!ミステリーとしての結末
終盤は、これまで散りばめられてきた謎が一気につながっていきます。

テツオの正体が、死んだと思われていた藤宮麗子だったことが判明し、たつの死や幽霊塔の財宝など、ずっと引っ張ってきた謎が回収されていく終盤はドキドキしっぱなしでした。

真犯人についても、容疑者候補自体がそれほど多くないので、予想できた人も多いんでしょうけど、間の抜けた警部に見えていた陣羽笛が、実は殺人鬼・死番虫だったという種明かし。

警察側に犯人がいるという丸部の推理からつながる構成も面白くて、怪しい人物を大量に配置して最後まで視線を逸らしてたのがうまい。事前の山科を疑わせる流れもいいミスリードでしたね。

それぞれが選んだ「自分らしく生きる」という答え
普通ならここがクライマックスなのに、その後に待っているのがテツオと丸部の脳交換計画。謎解きを終えたあと「テツオはどう生きるのか」という問題を最後のテーマに持ってくるのが、この作品らしいです。

テツオ以外の人物にもちゃんとそれぞれの結末が用意されていたことも印象的でしたね。

それぞれ考え方も選んだ道も違い、全員に同じ答えを与えないのがいい。誰かが決めた普通に合わせれば幸せになれるわけじゃない。自分自身を受け入れ、どう生きるかを自分で選ぶ。

その答えに辿り着くまでを、怪奇ミステリーを描きながら、描いているんだからすごいわ。

太一とテツオ、最後のキス
そして、やっぱり最後はここ。

再会した太一とテツオが交わすキス。

読み返してみると、この二人の関係に名前が付かなくて良かったと改めて思いました。

友情か恋愛か、男か女かという枠にはめずに、「この二人はこれでいい」と思わせる終わり方がすごく好きです。

君にだけは、テツオと呼ばれていたい

類似作品 こちらもオススメ!

江戸川乱歩作品を漫画化した猟奇ミステリーの『江戸川乱歩異人館』(漫画:山口譲司)や、『パノラマ島綺譚』(漫画:丸尾末広)も、本作が好きだったならおすすめです。

乃木坂太郎の描く、耽美と狂気が入り交じり、美しさと妖しい生々しさが共存するような絵が気に入ったなら、『ライチ☆光クラブ』古屋兎丸作品や、『イノサン』シリーズで知られる坂本眞一の絵とも相性がいいと思います。

あとがき

テーマ的にも、題材的にも、重くてめんどくさい。

でも、とにかく次々と謎を置いてくるので、ページをめくる手は止まらないっていう不思議。

そして、読後感も悪くない。

こんだけ詰め込んで、読後感もいいってすごいですね。読者の気になるところをしっかり回収して描ききったってことだから。

全9巻なのに、体感ではもっと長い物語を読んだような濃さがあります。

重いテーマを仕込まずに、純粋なミステリーとして楽しませてくれよ、という気持ちもありますが(笑)。

だからこそ心に残る傑作になったのは間違いないですね。

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『幽麗塔』で乃木坂太郎の描く世界にハマったなら、ほかの作品もぜひ読んでみてください。

作品によって題材は変わっても、圧倒的な画力と人間を描くうまさは共通しています。

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