『柊様は自分を探している。』の感想・レビュー|笑えて最後は切ないボーイ・ミーツ・ガール【西森博之】

柊様は自分を探している。

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『何もないけど空は青い』の連載が終了。…そしてついに西森博之(にしもりひろゆき)が「漫画家」としてサンデーに戻ってきた!

当時の『週刊少年サンデー』では、新編集長のもとで大改革がスタート。若手を大量に育成する一方、サンデーらしさを象徴するベテラン作家も本誌へ呼び戻す方針が打ち出されました。

そこで発表されたのが、藤田和日郎と西森博之の本誌帰還のニュースでした。

『何もないけど空は青い』で原作を担当するようになって、もう自分では描かないのかと寂しく思っていましたが、久しぶりに西森博之作品が読めてうれしすぎる!

『柊様は自分を探している。(ひいらぎさまはじぶんをさがしている。)』は、西森博之らしいクセの強いキャラクターやギャグを楽しみつつ、読み進めるほど物語の印象が変わっていく作品です。

最初は「いつもの西森漫画かな」と思っていたんですが、記憶喪失の柊様をめぐる謎が深まるにつれ、物語は予想外の方向へ。

今回は、そんな『柊様は自分を探している。』の魅力を紹介します。

あらすじ

『柊様は自分を探している。』は、記憶喪失の美少女・柊(ひいらぎ)様と、彼女に家来として選ばれた高校生・白馬圭二郎(はくばけいじろう)が織り成すミステリアスなボーイ・ミーツ・ガール・ストーリー。

高校生とは思えない貫禄を持ち、周囲からも一目置かれている圭二郎は、ある日、倒れた不良たちのそばにたたずむ着物姿の美少女と出会う。少女が覚えているのは、柊という名前だけで、自分が何者なのかも分からない記憶喪失の状態だった。

行くあてのない柊を自宅へ迎えた圭二郎だったが、彼女はなぜか彼を「家来」に認定。気位が高く奔放な性格に加え、普通の少女とは思えない強さで学校でも騒動を巻き起こしていく。

柊に振り回されながらも真正面から向き合う圭二郎は、彼女のカリスマ性と謎めいた過去に次第に惹かれていくことに。奇妙な共同生活を通して二人が距離を縮めていく一方、失われた記憶の向こうから柊の過去を思わせる謎が浮かび上がっていくのだった。

作品解説

『柊様は自分を探している。』は、漫画家・西森博之による、恋愛やコメディにミステリー、ファンタジーを織り交ぜたボーイ・ミーツ・ガール作品。

記憶喪失という謎を入口に、気位が高く奔放な柊と一本筋の通った圭二郎の関係を中心として、学校で起こる身近な騒動から次第に物語の世界を広げていく。

物語は、柊様の記憶を取り戻すための冒険と、その過程で育まれる二人の絆を描き、現代の日本を舞台にしながらも、天狗や魔物が存在する独特の世界観が特徴。柊様の過去や記憶の謎が徐々に明らかになるストーリー展開が読者を引き込んでいく。

『週刊少年サンデー』で連載され、全8巻で完結。

西森博之らしいクセの強い人物やテンポのいい掛け合い、誰かを守るために行動する主人公といった持ち味は健在だが、今作では絶妙なバランスのユーモアとシリアスな展開が楽しめる。

序盤の軽快な学園コメディから徐々に物語の印象を変えていく構成も特徴で、恋愛だけでは終わらない独特の読後感を残す作品である。

記憶喪失の美少女と硬派な高校生の絆の物語!

おすすめポイント・感想・レビュー

『天使な小生意気』以来の女性主人公であり、『道士郎でござる』のような和テイスト。最初は記憶喪失の美少女を拾って、なぜか家来にされるという、いかにも西森博之らしい始まり。

ただ、正直いうと途中までは「今回はちょっと弱いかも」と思っていました。

ところが最後まで読んだら、評価がガラッと変わりましたね。

いろいろ散らかっているように見えたのに、いやぁ、最後にこう持ってくるとは。やっぱり西森博之はうまい。

いつものようでいつもと違う

今回、今までの西森博之作品と比べるとだいぶ毛色の違う作品です。

なんだろ?「いつもの西森」と「いつもと違う西森」が両方ある感じ。

序盤は学園コメディやラブコメ、不良とのトラブルなど、おなじみの西森テイストで安定の面白さ。ところが話が進むと天狗が出てきて、夜叉が出てきて、さらに不死まで絡んでくるファンタジーに発展していきます。

柊様が記憶を失っているのもあって、『天使な小生意気』のファンタジーとはまた違う、ミステリー要素のあるシリアス展開が新しい。

ストーリー重視の展開

これまでの西森博之作品は、大きなストーリーの軸はありつつも、基本は単話のギャグ漫画として成り立っていて、それが次第に一本の筋になっていく展開が多かった印象です。

でも今回は今までの作品とは違って、最初からストーリーありきの中でギャグを織り交ぜているように感じました。

作品的には『スピンナウト』とかに近い感じ。『満天の星と青い空』や『何もないけど空は青い』などの小説や原作担当の経験が影響しているのかもしれませんね。

とはいえ、ギャグの面白さは健在です。

ギャグで散々油断させておいて、不意にシリアスを差し込んでくる。この緩急はさすが西森博之という感じ。柊に振り回される圭二郎や千弓、翔彦たちのやり取りが楽しい。

性格の悪い柊様と、ブレない圭二郎

柊様、普通に性格悪いんですよね。笑

偉そうで気位が高く、圭二郎を勝手に家来扱い。それでも読み進めると、素直なところや優しさ、意外なピュアさが見えてきて、どんどん可愛くなってきます。こういう女の子を描くの、西森博之は本当にうまい。

そして圭二郎がまたカッコいい。

強くて正義感があり、守ると決めた相手には最後までブレない。

タイトルは『柊様は自分を探している。』ですが、個人的には半分以上、圭二郎が主役の物語だと思っています。

最終巻で作品全体の印象がひっくり返る

中盤くらいまでは、面白いんだけど西森博之作品の中ではどの辺かなぁと、ちょっと評価に迷う感じもありました。

設定も増えてくるし、もう少し整理してほしいところもある。

でも最終巻、特にラスト2話。ここで完全にやられました。

それまで読んできた柊と圭二郎の関係が最後になって効いてくるんですよね。「柊様は自分を探している。」というタイトルまで違って見えてくる。

このラストがすごくいい。めちゃくちゃ好きです。

こんな人におすすめ

『天使な小生意気』みたいな、強くてちょっと面倒くさい美少女が好きな人にはおすすめです。笑

あとは圭二郎のような、強くて一本筋の通った男が好きな人にも刺さるはず。

最後まで読んで好きになったという声が多く、終盤でテーマが一本につながるタイプの作品なので、ぜひ最後まで読んでみてください。

柊様の正体と久遠夜叉との決戦
物語が進むにつれて明らかになるのが、柊様は普通の人間ではなく「不磨美人」と呼ばれる不死の肉体を持った存在だということ。

さらに柊を狙う久遠夜叉との戦いへ突入し、一気に物語のスケールが広がります。

ただ、ここは正直かなり駆け足。面白い設定やキャラクターが揃っているだけに、久遠夜叉との対決はもっとじっくり読みたかったですね。

前半の日常パートも含め、もう少し積み重ねがあればラストはさらに刺さった気がします。

「俺が殺してやる」が、こんなに優しい言葉になるとは
不死である柊は、自分だけが変わらないまま、大切な人たちが老いて死んでいくのを何度も見送らなければならない。

そんな柊の孤独に気づいた圭二郎が約束するのが「俺が殺してやる」。

いや、字面だけ見たら怖すぎる。笑

でも柊にとっては、これ以上ないほど優しい言葉なんですよね。そう言われた瞬間、安心したように泣き崩れる柊の姿がまたいい。

そしてここまで読むと、柊が探していたのは単なる記憶ではなく「自分は何者なのか」「誰と生きたいのか」まで含めた自分探しだったことに気付かされる名シーンでした。

連載が始まった時には、こんなにシリアスな「不死の少女と普通に歳を取る少年」の恋物語へ収束していくとは思ってもいませんでした。

ラストは最高の殺し文句
そして最終話では、いきなり60年後。

最初は「まさか、打ち切り漫画にありがちな、それから数十年後パターンか!」と思ったんですが、ちゃんと意味のある時間経過でした。笑

柊様は昔の姿のままなのに、圭二郎だけがおじいちゃんになっている。

ああ、そういうことか。

この二人、本当に一生一緒にいたんだなぁ。

それを60年間ずっと描くんじゃなくて、若いままの柊と老人になった圭二郎を並べるだけで見せてくるのがいいんですよね。

そして柊を殺すという約束を果たせないまま寿命を迎える圭二郎が、最後に残す言葉。

これはズルい。まさに約束通りの殺し文句でした。

一人で永遠に生きることが絶望だった柊に、今度は「また会えるかもしれない」という未来を残していく。

こんなロマンチックな漫画になるとは思ってなかったなぁ。ラスト2話で完全に泣かされました。

最後に収録されている、前世の圭二郎と柊の出会いを描いた外伝も良かった。

このテーマをギャグ交じりで描いて、最後に泣かせてくるのはズルい

類似作品 こちらもオススメ!

テイストはだいぶ違いますが、物語の根底にあるテーマでいえば『不滅のあなたへ』(大今良時)や『兎が二匹』(山うた)、『葬送のフリーレン』(原作:山田鐘人、作画:アベツカサ)あたりが近いでしょうか。

あとがき

主人公の柊様がワシ娘だったり、姫属性だったりとだいぶ尖ったキャラ設定だったので、キャラぶれしないように会話やギャグには制約が多く、ギャグ方面にはもう一歩突き抜けきれなかった印象もあります。脇役も過去作ほど目立たないしね。

日常の学園パートも、後半のファンタジーもまだまだ面白くなりそうだったので、前半のいつもの部分も、後半のいつもと違う部分も、どちらもあと5巻ずつほしかった。8巻じゃもったいない。

とはいえ、ラストの感動は西森博之作品の中でも随一です。

なんだかんだ言って、最後まで読んだら大好きな作品になっちゃいましたね。笑

西森博之のおすすめ漫画作品ランキングもチェック!

『柊様は自分を探している。』では、いつもの西森節を残しながら、これまでとは少し違った物語を楽しめました。

もちろん西森博之には、もっとギャグに振り切った作品、ケンカや青春が熱い作品、恋愛が刺さる作品もあります。

ほかに何を読もうか迷ったら、個人的に好きな作品をランキング形式でまとめているので、ぜひそちらもどうぞ。

→ 西森博之のおすすめ漫画作品ランキングはこちら

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